「おいおい。吉原。
 独り身の黒谷に酷なお願いするなって。」

 また来た…。

 未紗と戯れあっているとたいてい絡んでくる佐野主任。
 仲がいいからこその憎まれ口なんだけど。

「佐野主任こそ早く身を改めた方がいいんじゃないですか?
 今年で確か35歳ですよね?」

「身を改めるってなんだ。男は30からだ。
 20代なんてひよっこだぞ。」

 べーっと可愛い顔で舌を出す未紗が佐野主任をやり込める。

「同期の井村くんから聞きましたよ。
 前も佐野主任にいかがわしいところに連れていかれそうになったって。」

「井村…余計なことを。」

 頭をかいて落ち込むような素振りを見せるけど、もう知られていること。
 まぁ。佐野主任は営業だからそういうことも仕事のうちかもしれないけど。

 自分の彼氏だったら、ちょっと嫌だな。
 それにこれはいつもの戯れあい。

「うわー。だからこの歳で残ってるとロクな人がいないのよ。
 可愛い未紗に変な影響与えないでくださいね!」

「ひでーなぁ。俺ずっと一途なのに。」

「はいはい。言っててください。」

「その子が振り向いてくれるなら、俺、身の回りを綺麗にするのに。
 なぁ。黒谷。聞いてるか?」

「振り向いてくれたらなんて言ってる人は身を改めるなんて一生、出来ないんですよーだ。」

 未紗が憎まれ口をたたいて、佐野主任を笑わせる。
 入社当時から「黒谷が俺のこと見てくれたらやめれるのに」なんてしょっちゅう言われてる。

 それもかれこれ5年。

 戯れあうのにちょうどいい間柄。
 だから誰も本気にしなくて、それが心地いい間柄だった。