出勤しながら昨日のことを思い出す。
 どうして即座に返事が出来なかったんだろう。
 言われたかった言葉のはず…。
 それなのに………。

 そもそも……。
 デザートまで食べて、なんだかジムに行った方が太りそうな気がする……。

 元も子もない感想が浮かんでため息が出た。

「なんだ。ため息なんかついて。」

「佐野主任!
 いちいち背後から現れないでください。」

 朝の爽やかな日差しの中から現れた佐野主任はちょっと似合わない。
 濃い顔立ちと伸び過ぎた髪の毛のせいかもしれないけど、どちらかと言えば夜の方が似合っている。

 あんなにも望んでいた隆弘の言葉。
 その時にこの顔が思い浮かぶなんてどうかしてる。

「朝日が目にしみるな。
 俺、朝は苦手だわ。」

 イメージ通りの言葉に頬が緩む。
 佐野主任は、佐野主任だなぁ。

「で、なんだ。
 ジムに行ってリフレッシュしてるんじゃないのか。」

「まぁそうなんですけど……。」

「俺もちょっとサボるとビール腹になるからなぁ。」

「サボるとって何かやられてるんですか?」

「ジョギング。朝、走ってから来てる。」

 今度はイメージとかけ離れた言葉に目を丸くした。

「朝、苦手なのに?」

「あぁ。背に腹は代えられん。
 どうせ似合わないとか言うんだろ。」

「えぇ。似合いませんよ。」

「まぁな。俺もそう思うがな。」

 笑いながら行ってしまう佐野主任の背中を何故だか見送っていた。
 後ろ姿でも分かる細身のスーツ。
 すごく似合っているけれど佐野主任も何もしてないわけじゃないんだ。

 佐野主任が振り返って「黒谷も上だろ?」とエレベーターのボタンを押した。