ジムを終えると隆弘が嬉しそうに話していた「デザートの美味しいイタリアン」に向かう。

 その途中で井村くんと未紗が仲よさそうに歩いているところを見て、思わず隠れてしまった。
 会えばからかわなきゃいけないだろうしなぁと隠れた物陰から1本奥の道に行こうとして、誰かに声をかけられた。

「黒谷?
 お前、ずいぶん前に帰ったろ。」

「佐野主任!」

「あぁ。ジム帰りか。
 今から飯でもどうだ?」

「あ、いえ。今からは予定があって……。」

 なんでだろう真っ直ぐ目を見れない。

「なんだ。昨日言ってた元彼か?
 ………そうか。頑張れよ。」

 何も言わなくても汲み取ってくれたみたいで、顔は下を向いていく。

「おいおい。元気な黒谷じゃないと、そいつもがっかりするぞ。」

 肩をポンポンとたたかれて、佐野主任は駅の方へ足を向ける。

「髪、結わいてるのも、いいな。」

 去り際のボソッと呟かれた言葉に固まって、それから恥ずかしくなった。