帰り道を送ってくれるという佐野主任と一緒に歩く。
 駅まででいいと言うのに心配だからとアパートまでの言葉に甘えることにした。

「お見苦しいところをすみませんでした。」

「いいや。俺も黒谷の違った部分が見えて嬉しかったから。」

「人が泣いてるのにひどい。」

「ハハッ。悪い悪い。」

 こんなにも佐野主任の隣は居心地が良かったかな。
 良かったかもしれない。
 戯れあって、だけれどさりげない気配りをしてくれて。

「まぁ忘れられない元彼が現れちゃったら敵わないだろうけど、俺のことも考えてくれよ。」

「でも佐野主任は身の回りが……。」

「おいおい。あのふざけあってる会話ってそこだけ信じる?」

 ため息混じりの佐野主任に笑ってしまった。
 佐野主任といれば、ずっと笑っていられるかもしれない。
 無理しなくて一緒にいられて。

「俺、ずいぶん前から綺麗なもんだぞ。
 聞いてるか?」

「えぇ。聞いてますよ。
 耳からすり抜けてますけどね。」

 ふざけあった関係が心地よくて。

 アパートに着くと「ここなんです。ありがとうございます」と頭を下げた。

「腹、しまって寝ろよ。」

「ふっ。本当にお父さんみたい。」

「おい。地味に落ち込むからやめてくれ。」

 また頭に手を置かれてドキッとすると、乱暴に撫でられた。

「痛い…痛いです。」

「明日は元気な姿で来いよ。」

 え………。

 じゃーな。とだけ言って帰っていく佐野主任は後ろ姿のまま手を振っていた。
 その姿をどんな気持ちで見送ったらいいのか分からなくてただ見続けていた。