翔子と別れて帰り道を歩く。
 そういえば今日、未紗と佐野主任が休日出勤するって言ってたなぁ。

 ちょうど3時ちょっと前。

 未紗が美味しいっていうケーキでも差し入れするか。


「お疲れ様です。はかどってますか?」

 会社に行くと佐野主任がパソコンとにらめっこしていた。
 ファイルの山から未紗が顔を出す。

「黒谷先輩ー!
 佐野主任が全然役に立ちません!」

「未紗、そんなところにいたの。」

 小さい未紗は埋もれてると見つけ出すのが大変だ。

「おいおい。俺も尽力してるぞ。」

 苦笑するところを見るとかなり苦戦しているみたい。

 未紗は佐野主任専任の営業事務をした。

 佐野主任は仕事は出来て営業担当の企業をたくさん抱えていた。
 だから必然的に未紗の仕事も増えるのだけれど、それだけじゃなく、佐野主任は営業がトップでも事務作業の方はてんで駄目だった。

「佐野主任、もしかしてまた大事な書類をデスクトップに適当に保存して……。」

「あ!!あった!さすが黒谷!」

 電子化が進み、重要書類もデータ化されていた。
 それを作るだけ作って適当に保存が佐野主任の癖で、まぁ忙しい人だからね。と許していいのか……。

「さすが黒谷先輩!
 あ〜このせいでどれだけ時間を潰したか……。」

「悪かったよ。すまん。」

 軽い謝りの言葉は心がこもってるのかどうなんだか。

「少し休憩しない?
 いいもの買って来たの。」

 ケーキの箱を持ち上げると未紗が嬉しそうな顔に変わった。

「わぁ!ケーキですか?嬉しいです!!
 じゃ私、コーヒーを………。」

「俺、金出すから適当に買って来てくれないか?」

「やった!佐野主任!太っ腹!
 いいやつ買って来ますね!」

「あぁ。この際だ。金粉入りでもいいぞ。」

 自販機だからそんなものないんだけど、佐野主任らしい。
 ケーキを箱から出して、紙皿に置くと、見もしないで「俺、甘くないやつ」と声をかけられた。

「分かってますよ。
 未紗にはこの可愛くてデコデコのケーキで、佐野主任はレアチーズでいいですか?
 甘さ控えめって書いてありました。」

「あぁ。ありがとな。」

 未紗がコーヒーを運んできて、会議机に佐野主任もきて、みんなで囲む。

「黒谷先輩が女神に見える……。」

 大袈裟なことを言う未紗に笑みをこぼして、朋花もコーヒーをいただいた。
 視線に入った佐野主任の前髪が俯いてサラサラと流れると目に入りそうだった。

「佐野主任。髪の毛、気になるんでこれ付けておいてください。」

 ヘアクリップを鞄から出して、勝手に髪を持ち上げて止める。
 可愛いクリップが佐野主任の頭についているのがおかしくて吹き出した。

「可愛いです。佐野主任。」

「はいはい。どうぞご勝手に。」

 いつもとは逆の返答にまた笑った。

 しかしポツリと未紗がつぶやいた言葉に固まってしまった。

「黒谷先輩と佐野主任お似合いですよね。
 髪を触る仕草が自然で恋人同士みたい。」

「何を……。ないないない。
 未紗がそんなこと言うなんて。」

 戯れ合うのにちょうどいい間柄で、だから佐野主任だってそんな。

「俺は黒谷が振り向いてくれたらって言ってるだろ?
 ごちそうさん。」

 それだけを言い残して佐野主任は席に戻ってしまった。
 いつもの……戯れ合いの言葉だよね?