「でさ。話は戻るんだけど。」

「戻るの?」

 もうずっと駅の近くで話して、私も駅に行こうとしないし、隆弘も「気を付けて帰れよ」なんて言わなくて。
 すごく話し込んでいると思う。

 でも時間なんて確認したら、帰りたいって思われそうで時間を見ることも出来なかった。

「明日は…仕事?」

「ううん。土日休み。」

「俺、部活の顧問してて。」

「何部?」

「バスケ部。」

「イメージない。」

 付き合ってたのに知らないこともあるんだなぁ。
 スポーツは好きなイメージだったけど。

「本当?俺、結構上手いよ?
 ふざけてた奴を黙らせるくらいのシュート決めたりして。」

「男の子にも好かれて愛の告白されたりして。」

 本気で苦々しい顔をして吹き出した。

「慕われるまでで勘弁して欲しいわ。
 共学だから恋の相談に乗ったりするし。」

「わぁ。男子中学生の恋かぁ。
 初々しいだろうなぁ。」

 もっともっと懐かしい頃を思い出す。

 中学の頃は確かに恋に恋してるみたいな時でさ。
 先輩とか叶わない恋をしてキャーキャー言うのが楽しくて。

「うん。…じゃなくてさ。
 だから部活が終わったらご飯を食べに行こうと思うんだ。」

「そっか。生徒さんも連れて?
 どこの中学だっけ?
 どこなら生徒さんも連れていけるかなぁ。」

 隆弘は本当にいい先生なんだなぁと感心する。
 それなのに隆弘は呆れ顔だ。

「じゃなくて!
 俺は朋花ちゃんを誘ってるの!」

「え?あ、私?」

 どうしよう。
 誰かも誘う?って提案した方がいいの?

 今はなんとなく私だけを誘ってくれてる気はしてる。
 だからってぬか喜びしたくないって今は大人になった分だけ狡くて臆病な考え。

「あ、うちの後輩でさ、可愛い子が……。」

「俺、朋花ちゃんをデートに誘ってるんだけど!」

 どうして、どうして同じことを言うの?
 すごく嬉しくて、なのに同じだと同じ悲しい別れも連想してしまって。

 考えが顔に出ていたみたいで隆弘が申し訳なさそうに呟いた。

「ごめん。迷惑ならいいんだ。」

「違うの。ただびっくりして。」

 これは本当。

 もう一度、上手くいったらいいな。とは思っていたけど。
 まさかこんなに早くデートに誘われるなんて。

「そんなに俺…大学の頃の俺、朋花ちゃんを誘うような奴じゃなかったの?」

「んー。仲は良かったんだけどね。」

 また嘘をつく。
 仲は良かったって…。良かったんだけどさ。

「じゃ俺も大人になったってことかな?」

 そうだよね。大人になったから普通に食事にも誘えるし、さらっと連絡先も交換できる。

 電話することも電話に出ることもすっごく緊張したあの頃に何か大切なものを置き忘れてなければいいけど。

「じゃ食事に行かない?」

「うん。いいよ。」

「じゃ明日、部活が終わったら連絡するよ。」