食事を済ませると、また駅まで送るよと言ってくれる隆弘と駅までの道を歩いた。

「朋花ちゃんはさ。
 ジムに通おうと思ったきっかけは?」

 不意に聞かれた質問。
 私も聞きたかった。

「私は運動不足だから。
 それにちょっと痩せたくて。
 隆弘くんは?」

 痩せて新しい恋をって思ってたよ。

「俺はストレス発散かな。
 朋花ちゃん痩せる必要なくない?」

「そんなことないよ!
 脱いだらすごいんです!」

 分からないように隠すのに必死なのに八つ当たり的な思いで憤慨する。

「そう言われると見たくなっちゃうよ。」

 笑いながら悪戯っぽい顔を向けられた。

「え…。」

 冗談だって分かってるのに顔が熱くなってくる。
 そんな冗談言うような人だったっけ?

「ちょ、ちょっと待って!
 今ので顔を赤くされると俺、本当に変態みたいだから!」

 悪戯っぽい意地悪な顔してたくせに、今度は慌てる隆弘にこちらが意地悪を言いたくなった。

「ハハッ。変態教師。」

「それ一番ダメなやつだから!」

 私も変わったかもしれないけど、隆弘もこの5年で変わったんだよね。きっと。

 軽い冗談みたいなことも言えて。

「隆弘くんはさ。
 本当に生徒に好かれそう。」

「そりゃそれが目標ですから。
 それで教える教科も好きになってもらえれば。」

「そういう意味だけじゃなくてさ。
 中学生なんて女の子は隆弘くんに恋しちゃいそうじゃない?」

 本当に自覚ないんだから。

「えっと。
 まぁそういうこともあったりなかったり。」

「あったんでしょ!」

 そりゃそうだ。
 こんな先生が担任だったら中学生でも色めき立つよね。

「まぁ。でもさ。
 それは若い時の一時の憧れみたいなもんでしょ?
 はしかみたいな恋だって。」

 頭の後ろで手を組んで、少し思いを馳せるように話す。

 あぁ。
 この仕草してる時は何か都合の悪い時だ。
 そういうところは変わらないんだなんて面白いなぁ。

「そんなこと本人に言っちゃダメだよ。」

「だよね。すっげー泣かれた。
 卒業式に言われてさ。
 今なら俺、好きな人がいるからって言うかな。」

 胸が痛みを持って鼓動を速めて、その痛みを見ないように明るく話す。

「そう。いるんだ好きな人。
 同じ学校の先生?
 あ、分かった。
 今年入った新任の若い先生なんでしょ。」

「違うよ。それは…内緒。」

 うん。私もまだ聞きたくない。
 朋花ちゃんだよって言ってもらえる自信なんてどこにもないから。
 だからせめて夢を見ていたい。

「本当のことを言わないと中学生でも女は女よ。
 嘘なんてすぐ分かっちゃうんだから。」

「うん。ちゃんと誠実に対応するのが正解って分かったしね。」

「泣かれちゃって?」

 わざと茶化して話す。
 まだ気持ちは伝えたくないから。

「そう泣かれちゃって。」

「ふふっ。泣かれてからじゃ遅いよ。」

「ハハハッ。そうだよね。
 男ってさ。いくつになっても女の子には敵わないよね。」

「そうなの?」

「そうだよ。」

「そうかなぁ。」

「そうなの!」

 隆弘が女の子に敵わないなんて想像ができない。
 いつも私の方が好きの重さが大きくて隆弘の重さと天秤になんてかけれないくらいに。

 自分が思っていることをあまり言葉に出さない人で、好かれてるのか不安になることだってあった。