着替えを済ませて2階に上がると既にストレッチを終えた隆弘がランニングマシーンで走っていた。
 その横顔だけでかっこいい。

 テンポよく脚を運んで駆ける姿。
 汗を拭きながら真っすぐに前を向いて。

 ちらちら気にしてる女性は他にもいて、あー隆弘は自覚がないだけでモテるんだよね。
 自覚がないところがまたいいんだけどさ。

 私に気づいた隆弘が自覚がないからこそ出来る笑顔で私に手を振っている。
 うわー。すっごく周りの視線が痛いんですけど。

 ストレッチをしていると走り終えた隆弘がやってきて「次はエアロバイク一緒にやらない?」って汗を拭きながら話す。

 一緒にってやれるものなのか…なんだか隆弘といると針の筵みたいだ。


 それでも断るのも変だし、何より嬉しくて、ストレッチを早めに切り上げると隆弘とエアロバイクへ向かった。
 その途中で女性に話しかけられた。
 私じゃなくて隆弘が。

「すみません。このマシーンの使い方、教えてもらえませんか?」

 その人は緊張気味に話しかけてきているのが痛いほどに伝わって、隆弘の隣を歩いていることがとても悪いような気がした。
 隆弘は爽やかな笑顔を向けて口を開く。

「あぁ。それなら、ここの…えっと誰だったけ?
 朋花ちゃん。ほらさっき話してた。」

「え?えっと、澤部さんのこと?」

「そうそう。澤部さん。
 その人に聞くといいよ。」

「そ、そうですね。
 ありがとうございます。」

 タタタッと階段へ向かった女性に少し胸が痛い。

「今の人、隆弘くんに教わりたかったと思うよ?」

 罪深い隆弘はきょとんとした顔をしている。

「インストラクターの人の方がよく分かってるよ。
 間違ったこと教えても悪いし。」

 いやいや。間違ったことでも隆弘くんに教わりたいの!
 とは言えないけどさ。

「それに……。」

 ん?と隆弘へ向けた視線に後悔した。
 すっごく照れたような顔をして、タオルで口元を隠した隆弘の言葉に浮かれそうになったから。

「俺、朋花ちゃんと……エアロバイク行こうって言ってたのに邪魔されたくなかったから。」

 違うよ。違うの。
 誘ったから律儀な隆弘は、私を待たせることが悪いって思うような人だから。
 他意はないの。他意は。

「フッ。また百面相。
 可愛い顔が面白いことになってる。」

 自覚ない罪深き隆弘。
 今の発言で、私の敵が増殖した上に、あなたへ憧れる人が激減したわよ。

 気にしてなさそうな隆弘に、そういえば隆弘はここには出会いを求めに来てはないのかな。と疑問がわいた。