「アパート近いんだっけ?」

「ええ。隆弘くんは?」

「俺はかなり遠いんだ。教師って面倒でさ。
 あんまり学区で生活してて私生活を生徒や保護者に見られるといけないからね。」

「そうなんだ。大変だね。」

 歩いて駅まで向かう帰り道。
 隣を歩く隆弘はあの日のまま。

 すらっと背が高くて本当は歩くのが早いのに、私に合わせてくれる優しいところも変わっていない。

「こんな風に女性と夜道を歩いていたら、何もなくたって学校に連絡がいくんだよ。
 子どもの教育上よくありませんって。
 先生だって人間で男なのに。」

「隆弘くんも連絡されたりしたの?」

 別れて、しかも記憶をなくして、それなら彼女がいたって文句も言えない。
 何より放っておかないよ。こんないい人。

「悲しいことに連絡されるようなことが、これっぽっちも無くてね。
 お陰でいい先生だって評判は上々だけど。」

 白い歯を見せて戯ける隆弘は「この駅?」と言って立ち止まった。

「俺、あっちの駅なんだ。」

「それなら言ってくれればいいのに。
 遠回りしなくても…。」

「朋花ちゃんはもっと女の子って自覚を持った方がいいよ。
 夜道に1人で帰せないし。」

 女の子扱いに照れる。
 でも隆弘はそういう人だ。

 あんまり女の子扱いされない私が女の子扱いされて照れたことを思い出す。
 いつもいつも送ってくれて。

 途中からはずっとどちらかの家に入り浸って一緒のところに帰るようになったけど。

「ほら。朋花ちゃん。
 見て、あれシリウスでしょ?」

 言われて見上げれば南の空に輝く星。
 久しぶりに見上げて涙が流れそうになる。
 しかも思い出のシリウス。

「朋花ちゃんはさ。
 下を見てないで上を向いていて欲しいな。
 俺が…色々と忘れちゃったせいだよね。
 ごめん。
 考え込むみたいに下を向くから。」

 じゃ。気を付けて帰りなね。
 と隆弘は来た道を戻っていく。

 指摘されて気づいた。
 せっかくの再会なのに下ばかり、思い出ばかりを見ていた。

 もしも…もう一度、付き合えたとして、そこには同じ別れが待っている…?
 ううん。私はあの頃と違う。
 今の私ならもっと上手く付き合えるのにって思ってた。

 だからもう一度、友達から始めよう。
 それで今の私を好きになってもらえるように頑張ろう。

 これはきっと神様がくれた最後のチャンス。