「同じサークルでね。
 仲がいいメンバーだったんだよ。
 他にも瑛士や翔子や……。」

「なんのサークルだったの?」

「天体観測のサークル。
 そんなに天体観測に力を入れてたわけじゃなくて、集まってただ騒いで。
 楽しかったな。」

 グラスの中身をストローでかき混ぜて、カランと氷が落ちた音がする。
 こうやって音をさせるのが好きで「またやってる」って笑われたな。

「だからかな。
 今でも星を見上げると心が落ち着く気がするんだ。」

 力を入れてたわけじゃないなら星なんか見てなかったかな。
 って笑う隆弘をまぶしい気持ちで眺めた。

 私は…私は星を見上げたり出来なかった。
 隆弘が私の前からいなくなって、見上げると涙がこぼれそうで。

「そういえば隆弘…くんは仕事、何をしてるの?」

「教師。理科の先生だよ。
 天体観測サークルっていうのも、そこから来てるのかな?」

「そっか。夢を叶えたんだね。」

 目を見開いた隆弘がその目を細めて優しい顔をした。
 好きだったな。その顔も。

 私と翔子は商学部、隆弘と瑛士は教育学部だった。

「夢を叶えたんだ。俺ってやるな!」

 教育学部でも教師にならなかった人もいる。
 その中で隆弘、それに瑛士も先生になる夢を叶えているんだ。

 楽しそうに笑う隆弘に沈んでいるのが馬鹿みたいに思えて、私も笑顔を向ける。

「そうだね。すごいよ。」

 笑いあって、それから少しの沈黙の後に隆弘が言いにくそうに聞いた。

「……あのさ。俺たち付き合ってた?」

 心臓がドクンと飛び跳ねて、隆弘を見れなくて、グラスの中身を見つめたまま口を開いた。

「付き合ってはなかったよ。」

 嘘。大好きだったよ。
 その言葉は口から出ないまま。

 記憶がない人に言っても困るだけだと思うし、それに付き合って別れたんだって言ったらもう会えない気がして。

 新しい恋に目を向けるつもりだったんだから、もう会えないほうがいいのかもしれないのに。

「そうなんだ…。
 当時の俺って勇気あったのか、なかったのか。」

 苦笑する隆弘に胸が痛くなる。

 ものすごく勇気あったよ。
 電話をくれて、デートの誘いをしてくれた。

 私はデートだなんて思わなくて
「翔子に瑛士も誘う?あの2人誘うと喧嘩が始まるかな」って笑ったら
「2人でお願いします。デートなので!!」って言われた。

「また……会えないかな?」

 会っていいのかな。

 困るはずなのに、それをものすごい勢いで上回るほどに嬉しい。

「変な意味じゃなくて、また大学の頃の話を聞けないかなって。
 ジムの後とかでもいいからさ。」

 頭をかいて照れたような隆弘が愛おしくて断ることなんて出来なかった。

「いいよ。
 忘れたままなんて私も寂しいし。」

 忘れたままは寂しい。

 でも全部を思い出しちゃったら、この再会が終わってしまうのかな。
 そう思うと忘れたままでいてっていう気持ちもどこかにあった。

 連絡先を交換すると番号もメールアドレスも全くの別物になっていて、分かっていたことなのに胸が痛かった。

 隆弘はそこへの疑問は無かったみたいで安堵した。

 散々、仲がいいって言ってるのに連絡先を知らないなんておかしいよね。
 そこは事故をした時に全て無くしたって思ってるのかな。