夜、眠れないのは2人とも同じだった。
眠る前に睡眠導入剤を2錠飲んでそれでも、ベッドに横になると妙に冴えてしまう。
身体はとても疲れているし、そろそろ休まなければいけないと分かっているはずなのに、それでも眠ることができなくて、一睡もできないまま迎える朝が多かった。
隣りに誰が寝ていようが、1人の夜でもそれは変わらずそうだった。

犀麦はお酒が入っていればだらしなく眠る日もあったのだけれど、アルコールが切れると起きてきてしまうし、飲み過ぎて眠れないという時の方が多かった。

横になることを早々にあきらめた私たちはビーズクッションのソファーにもたれてぼんやりと彼の部屋のDVDを眺めていることが多かった。

彼は再生機にいつもWHITE ASHのDVDを入れていて、テレビを付ければいつも中性的な英語が流れ出す。眠るには少しうるさくて、起きているには少し静かなそれをぼんやりと聴きながら画面に映る暗がりな映像を眺めた。

WHITE ASHって好きですか、と犀麦に聞かれた時、私は首を振ろうとしてやめた。
そうすると嫌いと言ってしまっているような気がしたから。
「別に」と答えて、「あまり知らない」と言い直した。ぼくもですと犀麦は言っていた。
じゃあ何が好きかって聞かなくても大体のことは分かっていた。
slip knotとかSUICIDE SILENCEとかVan Halenも好きでWHITECAPELも。何かこう、分かり易い。

中学2年生だと自分のことを彼はよく言っていた。その通りだと思った。
「初めてCDを買ってもらったのが中学生の時で、いくらおじさんになってもその頃に聴いていた曲は好きなまま。だから新しい曲を聴く時だって結局はそうやって世の中から3ミリとか4ミリとかズらして聴くの。ぼく、多分普通の子が聴くような音楽で喜べないから」

中学生みたいなことを言っている彼を、痛いと思ったことはけしてない。私も彼の世間から3ミリ4ミリほどズれているところが格好良いと思っていた。