月が綺麗ですね

私は首を傾げるものの、そんな声を気にする様子もなくおじ様は口を開く。


「時間がないので皆さんの自己紹介は各自でやってもらうとして、私は秘書室長の広瀬です。それから進藤さんの教育係は三浦さん。えーと、取りあえずそんなところでいいかな。では皆さん仕事に戻って下さい」

「はい」


室長の声とともに秘書の皆々様がスッと音もたてずに座ると、仕事を再開する。

皆背筋をピンと伸ばし両足を揃え斜めに少し倒す。そんな姿勢でパソコンのキーボードを叩いたり電話対応をしたりしている。

絵にかいたような秘書の典型と言うか、テレビドラマのワンシーンを見ているようだ。

足を組んだり椅子をブラブラと揺らす光景は一切ない。

机の上にお菓子があったりキャラクターグッズが置いてあるなんてことは...ない。

秘書と言う職業柄、美意識が高いから?

ポカンとする私に横から声がかけられた。



「よろしく進藤さん。私が三浦です」

「あっ、はい。よろしくお願いします」


目の前に現れたのは私より少し年上のショートカットの美しい女性。
耳に付けている大きなダイヤのピアスが印象的だ。


「立ち話もなんだから向こうの会議室に行きましょうか」


笑顔で言うとクルリと向きを変えて歩きだす。ピンと背筋を伸ばし歩く姿勢にもきっと神経を使っている風だ。
私もその後に続くと、三浦さんは秘書室を出て、”空き”と表示された会議室へと入った。