月が綺麗ですね

「...風花」

「えっ?」


声の方に顔を向けると、弘くんが立っていた。


「弘くん?どうしたの?」

私は彼に駆け寄る。


「...その、今日は六ツ島さんもいないし早く帰るかと思ってさ」

「良く分かったねっ!これから、寄り道して帰ろうと思ってたとこっ」


満面の笑みで答える。


「弘くんこそどうしたの?人事だって毎日残業でしょ?特にこの時期は新入社員の受け入れ準備で忙しいんじゃないの?」


弘くんの手にはビジネスバックが握られている。まさかこれから外出?


「いや、だからさ」


弘くんの顔が赤いのは夕日のせいだろうか?


「風花を待ってた。一緒に夕飯どうかと思って」

「うそっ、弘くんのおごり?」

「...まあ、いいけど」

「やったぁ。私、今月きつかったんだよねっ」

「お前、金ないくせにどこかへ寄ろうとしてたのかよ?」

「うん、まあね。せっかく早いしいいかなって」