月が綺麗ですね

「ねぇ...」今度は北林さんが口を開く。


お願いっ!私を着替えに行かせてっ!

...でも、言えない。
副社長の命令も大事だけれど、お姉さま達との関係も大事...。
どちらを取るかと言われれば、それは当然お姉さま達に決まっている。
これは秘書として今後の死活問題に関わることだ。

だけど、お願いだから早く終わってっ。私は祈るように胸の前に抱えているスーツをギュッと握りしめた。


「私も副社長にのりかえようかしら?」


ひゃーー。

北林さんたら何を言い出すのっ!?

喧嘩の種をまかないでー!!飯塚さんを挑発しないでー!!

ギョッとしながら北林さんを見つめると、クルクルと長い髪をいじりながら色っぽい声でグッと私の顔をのぞき込んでくる。


「いいわよね?進藤ちゃん」


「ど、どうぞ...あの、副社長は私のものではありませんし...」

圧がすごい、圧が。完全に迫力負けをして私は一歩後ろに下がると同時に、


「当たり前でしょっ!!」

飯塚さんの激が飛んだ。



「す、すみません」


一体ここでどれだけ時間を使っているの?

早くしないと...マジでやばいんですけど。私は半泣きだ。