月が綺麗ですね

図星だったのか拳をギュッと握りしめると、北林さんを無視して飯塚さんは私に向き直る。


「それくらいでいい気にならないでよっ?」

「へっ!?私は別に...」

「副社長にちょっと親切にしてもらったからって、調子に乗るなって言ってるの。あんたがあまりにも、みすぼらしかったからよ」

「は、はい、私もそうだと思いますっ」


大袈裟に頷いて見せる。


「自分の秘書が自社ブランド着てなかったら、恥をかくのは副社長なのだし」

「そ、そうですよねっ」


ヘラヘラしながら頭をかくのは自己防衛。自分を卑下することで、相手の優位性を示すのだ。配属されてまだ2日しかたっていないのに、飯塚さんとギスギスした関係になるのは得策じゃない。


「飯塚さんたら後輩いじめかしら?副社長に言っちゃおうかなぁ」


マウンティング合戦でもしているの?

目を細め、飯塚さんに顎を突き出し薄笑いをする北林さん。


「ちょっとあんたは黙っててよっ!」

すぐさま怒りの声を飯塚さんが上げる。