月が綺麗ですね

そして恐る恐る飯塚さんに視線を移すと、ギリギリと歯を食いしばって相変わらず私を睨んでいる。


「...すみません」思わず謝ってしまう。


今度は北林さんがワンレングスの前髪を後ろにかき上げると、私の肩に手を掛けて来た。


「あらぁ、別にいいじゃないの。どうせ捨てちゃう服なんだから、リサイクルした方が地球に優しいわ。ねぇ、進藤ちゃん?」


し、進藤ちゃん?



「...はぁ」私は苦笑いで返す。


「急に秘書室に異動になって、スーツ買う暇なかったのよね?」


北林さんに問われて、「まぁ、そんなところです」と私は答えた。


「飯塚さんはスーツもらえなくて悔しいみたいよ?」


明らかに反好意的な口調と声。


こ、これは雲行きが怪しい。ドキドキと鼓動が段々早くなっていくのを感じながら、私はゴクリと唾を飲み込むと、飯塚さんと北林さんから目が離せない。


飯塚さんはキッと北林さんを睨みつける。

「ちょっと、私をバカにする気。そんな型落ちの中古のスーツが欲しいわけないでしょ?」

「違うわよ。問題はスーツじゃなくて、自分は副社長から気遣いをされなかったことに腹を立てているんでしょ?」

北林さんはこれ見よがしにククっと笑う。