ひゃーーーいつの間に!全然気づかなかったっ!!


「ふ、副社長っ!?」


振り返ると、副社長が入口のドアの壁にもたれ掛かって長い足をクロスさせて立っていた。


「お、おはようございますっ」


今日は8時出社のはずだけど、どうしているのっ!?


「飯塚は愚痴を漏らしたことはなかった」

「は、はい。申し訳ありませんっ」


頭を下げながら、慌ててデスクの上を拭く。


「あ、あの、先日はご馳走さまでした」


デスクを拭き終わった台拭きをギュッと握ると、改めて頭を下げる。


「ああ」


彼はデスクの上に黒のビジネスバックを置くと、


「スーツ、買ったんだな」


そう言いながら私の前に立った。

私が着ているスーツは自社ブランドではない。本当は自社ブランドのモノを選びたかったのだけれど、高額で手が出なかったのだ。社販もあるが納期に時間がかかり、結局お手頃価格のスーツを購入したのだった。

秘書室のお姉さまがたのスーツは当然自社ブランドだ。

取りあえず、黒なら何でもいいかな?と思ったのが浅はかだった。