月が綺麗ですね

自動ドアの開く音と共に、ヒタヒタと床を歩く音に気づきそちらに視線を向けると、ブルーのサーフパンツをはいた副社長がタオルを手に持って入って来た。

三浦さんの言ってた通り、確かに細マッチョだ。鍛え上げられた肉体は、美しい。


おもむろに近くのビーチベッドにタオルを投げると、小走りにプールへとその身を投げた。


ザブンッ!


水しぶきを上げたかと思うと、そのままクロールで泳ぎ出す。


わあ、綺麗なフォーム。


水を蹴る足は力を抜いたように水しぶきをあまり上げていないし、水を掻く長いリーチもそこまで早くはない。それなのにスピードはそれなりにある。


オリンピックなどの競泳とは違い、あれは遠泳の泳ぎ方かも知れない。


水音もバシャバシャと言うよりは、灯りの落ちた空間に遠慮するかのように柔らかく耳に心地いい。しかしそれがかえってゆったりとした時間と余裕を感じさせ、大人の空間を副社長自身が演出をしているように思える。

副社長の作る水紋はなめらかな曲線を描き、動から静へと移行する様は芸術的だ。


空間の雰囲気も副社長の泳ぐ姿も、優雅という言葉がピッタリだった。