月が綺麗ですね

──そこは都内でも超有名なホテルの会員制スポーツクラブだった。

私は副社長からプールサイドで待機するように言われ、ホテル従業員さんの案内で先にプールに来ていた。

屋上にあるプールは天井までもがガラス張りだ。温水プールのため、所々ガラスは曇っているものの、チラホラ星も見える。

歴史のある老舗ホテルなので建物の高さは新築のホテルに比べれば低いが、それでも夜景を愉しむには充分だった。

プールサイドから一段上がった所にはソファーが置かれている。

夜のせいで室内のライトは落とされていて、水面は青い光を反射した鏡のように輝いている。


金曜の夜だと言うのに、利用客は誰もいなかった。


音のない空間に妙な安堵感を憶えながら、それとは対照的にピンと張りつめた水面をじっと見つめている時だった。