月が綺麗ですね

取りあえず1階で降りるしかない。


「どうしよう...」

戸惑いながら辺りを見回すけれど、今日に限って警備員さんの姿がない。

きっと社内の巡回にでも行ってしまったのだろう。

受付嬢の姿も定時後は当然ない。



そうだっ、非常階段で地下に降りれば...。


私は急いで非常階段へ続く扉を開けて、一気に駆け下りる。


「初日から新人をこんなにこき使うものなの?」


不満を口にしながらカンカンと鉄製の階段から響く乾いた音が、急いでいる私の心と二乗作用を伴って余計に焦らせる。


息を切らしながら地下3階の駐車場に着くと、既に副社長は腕を組んで待っていた。


「遅いっ」

「申し訳ありません。ここへの来かたが分からなくて」

「向かって一番左のエレベーターが地下へ来ることを知らないのか?」

「えっ?そ、そうだったんですか。知りませんでした」

「憶えておけよ。それより...」