月が綺麗ですね

「進藤 風花」

「は、はい」


ってかフルネームで憶えててくれたんだ。ちょっと嬉しい。

若干気が緩んでいた私は慌てて背筋を伸ばす。


「これから俺に付き合ってもらう。帰り支度をしたら地下駐車場に来るように」

「は...い?」

「分かったのか?」

「は、はい。ですが...」

「何だ?」


眼鏡の下から鋭い瞳を向けられて、一瞬言葉を発するのを躊躇してしまう。



「お、お、お掃除をしませんと」

「今日はほとんど使用していないから掃除は不要だ」

「でも...」


飯塚さんに怒られちゃうかもしれないし...。


「飯塚なら外出先から直帰だ」

まるで私の心を見透かしたようなセリフに、はっとして副社長を凝視してしまう。


「さっさと来いよ」


そう言い残して部屋を出て行ってしまった。

置いてけぼり...ですか。