月が綺麗ですね

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その夜、私は彼の泊まる旅館の部屋にいた。


「浴衣姿の風花も色っぽいな」


そう言って下駄の音をさせながら近づいてくると、庭で月を見ていた私を背中から抱きしめてくる。


「...ありがとうございます」

「風花は知ってたんだな。あの意味を」

お風呂上りのサラサラの髪が私の頬をくすぐり、首筋にかかる声。

...あの意味。

思い出すと胸がトクンと鳴って、熱くなる。


「『月が綺麗ですね』夏目漱石が東大の英語教師だった時に”I LOVE YOU”は”月が綺麗ですね”と訳しなさい。そう言ったんですよね」

なんて情緒的なんだろう。私はそれを知ったとき感激した。日本語っていいなぁ。と思ったっけ。


「お前の返しは俺を虜にした。俺を風花に溺れさせてくれ...」


私はそれには答えなかった。恥ずかしかったから。


「憶えてるか?いつかの賭けを」


あれは確か...副社長室でのこと。徹さんが私の言葉の続きを当てるクイズみたいなものだった。


「風花をゆっくり頂くとしようか?」


ドキドキと壊れてしまいそうなくらい痛みを持った胸。熱い体。

けれど、もう抵抗するのはやめにしよう。

彼の思いのままに...。



徹さんは私の浴衣の襟元をちょっぴり強引にはだけさせると、首筋から鎖骨へと唇をゆっくりと移動させた。

私は後ろから回された彼の大きな手に自分の手を重ねてギュッと瞳を閉じると、徹さんにもたれかかるように体を預けた。


唇の温もりに吐息が洩れそうなのを我慢していると、


「風花のこんな姿、誰にも見せたく無いな」


そう言って唇を離した。


「辛いが、今日はここまでだ」

「えっ?」

「残りは明日にとっておくとしよう」

「明日?明日、何があるんですか?」

「それは明日になれば分かる」


意地悪を言って教えてくれない。