月が綺麗ですね

凄い剣幕でまくしたてるいがちゃんとは対象的に、春の風は私たちの会話には不似合いな温かさをもって、二人の間を流れていく。


「二十数年前の秘書室は本当に大奥だったらしいの。会長や社長、重役の愛人がゴロゴロ。私の母親もね」

「嘘...」

「本当よ。徹はそれを嫌って、少しずつだけど変えようとしている」


あっ...それで重役会議の時に、秘書室の改革を訴えたんだ。


いがちゃんは持っていた湯呑を静かに置いた。


「私と徹は腹違いの兄妹なのよ。だから苗字が違うの。徹の父親は愛人だった私の母親に産ませた私を認知しなかった。そして六ツ島の姓を名乗ることを拒否したの」


それで戸籍上は徹さんはひとりっ子なんだ。


「最低な父親よね。徹から聞いたんだけど、奥さん...つまり徹の母親が断固拒否したらしいけどね。まあ正妻の気持ちを考えれば当然よね」


いがちゃんの目には光ものがあった。


「ったく、バカな母親よっ!!子供がどれだけ肩身の狭い思いをするかなんて、考えちゃいないんだから。いくらお金があったって...私なんて生まれてこなければ良かったっていつも思ってた」

「そんなこと無いよ」

「私の育った境遇も知らないくせに、安易にそんな慰め言わないでよねっ!!」

「ご、ごめん」


そうだよね。当事者しか分からないこといっぱいあるもんね。


「実の母親からはお荷物扱いされて、父親には正妻がいる。幼稚園や小学校の父親参観にあいつは一度だって来たこと無いんだから。それどころか、一緒に出掛けた事だってないんだよっ。あいつがウチに来た時は、私は家から追い出されて無理矢理友達の家に行かされて...親の愛なんて私は知らないで育ったんだよ」