月が綺麗ですね

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あっという間に金曜日が来てしまった。

私は朝から失敗の連続だ。夜のことを考えると不安と期待でとても冷静ではいられない。

会話は上の空だし、たった今も持っていたカップを手から滑らせて、派手にコーヒーを床にこぼしてしまった。


「どうしたの?何かあったの?」


心配して三浦さんが声を掛けてくれた。


「いいえ。すみません、直ぐに片付けますからっ」


苦笑いで首を振ることしか出来ない。

気を取り直して...ってそんなこと出来るわけない。とにかく私にとってただ事ではないのだから。

うるさい心臓を抑えようにも、かえって激しくなるばかり。

みんなそうなの?私みたいに動揺するの?
それとも、異常に緊張しているのは私だけ?私がおかしいのかな?

そんなことを考えているから、またやってしまった。


「進藤さんっ!電話鳴ってるわよっ!」

隣の席のお姉さまの激が飛ぶ。



徹さんと飯塚さんは急な出張が入って、昨日から福岡に飛んでいる。

今日の夜に帰ってくるとの連絡はあったけれど、なんなら今日の予定は中止してもいいのだけれど。

あっ、そうするとキャンセル料がかかってしまう。それはもったいないし、疲れて帰ってくるのだから、徹さんだけ泊まってもいいし...。

だってスイートの料金はルームチャージだから、何人泊まっても変わらないし。

心ここにあらずの状態で私はパソコンのキーボードを叩いていた。