月が綺麗ですね

「徹さん絶対私の家には上がらないんだよなぁ」

車の窓に「はーっ」と息を吹きかけて白くなった所にハートマークを書いてみる。


今まで彼は私の家に上がったことがない。いつも玄関先まで送ってくれると、『じゃあまた明日』と言って帰ってしまう。

私としてはそれが少し寂しかったりする。一緒に軽いお酒やお茶を飲みながら、おしゃべりをいっぱいしながら夜を明かしてみたい。

ある時、理由を尋ねたら、『家に入ったら風花を襲ってしまうから』真顔で彼はそう教えてくれた。


本当に私を襲うつもりなのかな?

だとしたら、家へ上がった時が私たちの...その時ってこと?

自分の空想が自分の胸をキューっとさせる。


でも、いつかはその日が来るんだ。

愛し合っていたらそれは自然な流れ...。


結ばれたいと思いながらも恐いのは何故?

それは彼の言う通り男性を知らないから?


もし知ってしまったら、その先には何があるの?


ハートマークを手のひらで消すと、うつろな瞳は街道を流れる車のテールランプを見つめていた。