「何かが出来る...か」


呟いたところでそんな声は誰も聞いていないし、街の喧騒に飲み込まれるだけ。

それすらに心地よさを感じる。

時には無関心がありがたい。


私の横にスーッとグレーの車が静かに止まると、視線をそちらに移す。


この人は私に無関心ではない。当然私も彼に無関心ではいられない。

今、私たちはお互いを愛し、必要としている。


ふっと小さな笑みを漏らすと、私は辺りに視線を走らせて周囲を確認し急いで車の助手席へと乗り込む。
パタンとドアを閉め私がシートベルトを締めたことを認めると車はウインカーを出して夜の街を走り出す。


「今日は何が食べたい?」


暗い車内には街の雑踏とは不釣り合いな室内管弦楽が流れている。

ここからは私たちだけの特別な時間と空間。

時の権力者さえも不可侵な絶対領域。

だから音楽が都会と不釣り合いであっても、私たちには関係ない。


誰も犯すことの出来ない小さな世界がここにはあった。