そして照れくささを悟られまいとしているのか、おもむろに立ち上がると窓際に足を進め副社長は腕を組んで斜めの体制でガラスに体重を預けた。

私には背を向けているが、ガラスには彼の顔がくっきりと映っている。


「...恋焦がれる女がやっと俺のそばに来たんだ。緊張して何が悪い?」


そ、そんな嬉しいこと真顔で言わないで下さい。こっちが恥ずかしくなっちゃう。
それよりも何よりも、副社長が緊張することなんてあるの?

意外な言葉にうっかりニヤケながらもドクドクした胸を抑えるように両手で心臓を押さえる。


「あの、ひとつ聞いてもいいですか?」

「なんだ?」

「どうして”彼女”にこだわったんですか?」

「それは当然だろう。考えてもみろ。彼女とそうでない女性、どちらも親切にする必要があるか?確かにそんな男もいるだろうが、俺は違う。彼女だけを大切にしたい」


真面目なんですね。




「で、お前は俺に夢中だな?」


はっ?...もう憎たらしいっ!


一瞬の間を置いて「...いいえ」私は答えた。


『はい』って言うのが何だかシャクになってきた。だって、副社長の罠にはまった感じなんだもの。
『お前は必ず俺に夢中になる』前にそう言われたけれど、その通りになってしまったから。副社長はなんでもお見通しみたいで少し悔しい。

飯塚さんを使って私の嫉妬心を煽ったりして。でも...素敵な罠だった。


「好きだけど、まだ夢中じゃないです」

「まったく素直じゃないな。そんなところも可愛いんだが」


再び私の方に歩み寄ってきた。