羽田から北海道へ早朝の便でとんぼ返りして、3泊4日の出張を終えた副社長と飯塚さんが北海道から戻って来た。

二人がオフィスに戻って来たのは定時の1時間前だ。

そんな遅い時間に戻って来てもどうせ疲れているのだし、直帰にすればいいのに。と思っていた私はどうやら考えが甘かったようで。


バタバタとオフィスに戻るなり、恐ろしい勢いで副社長は仕事を始める。私がコーヒーを持って行っても、忙しくキーボードを叩きパソコン画面から視線を外すことなく、ただ「ありがとう」と言っただけだった。


少し寂しい気持ちになった私は何を期待していたのだろう。

『俺がいなくて寂しかったか』とか『逢いたかった』とか甘い言葉を期待していた自分が恥ずかしい。

ここは会社なのだから、そんなセリフを期待するほうが間違ってる。会社は仕事をするところであって、逢瀬を愉しむ場所ではない。


それとも...。

肩を貸したこと、それにただの一度唇を重ねただけでは副社長の中では彼女とは言えないのかな?


すっかり副社長の虜になっている自分に驚きハッとする。

ほんの数週間前までは、『花嫁にはならない』なんて強気の発言をしていたのに。


「やだ、私ったら...」


私は心のモヤモヤを打ち消すように頭を振ると、飯塚さんにもコーヒーを運ぶ。