月が綺麗ですね

それから程なくしてドアをノックする音と共に野菜中心のお料理が運ばれ、ビールとオレンジジュースがテーブルに置かれた。

副社長は、ほんの数分前まで涙を流していたことなどみじんも感じさせない笑顔で、サーブしてくれたホテルの女性に「ありがとう」と言葉をかけた。

声を掛けられた女性は頬を赤く染めながら、「ごゆっくり」と答えた。


彼女が部屋を後にするのを見届けると、


「お疲れ」

「お疲れ様でした」


私たちはグラスを合わせる。

副社長は目の前のお皿に箸を伸ばす。


「...どんな男だ?」

「はっ?」

「お前と飲んでいた男に決まっているだろう」


さっきとは打って変わって、完全に副社長は気持ちを切り替えていた。
これがこの人の凄いところなのかも知れない。

副社長と言う立場上、それは必要不可欠な精神なのかも知れないけれど。でも、この人の精神力の強さに私は驚いた。


「えっと....」


私は少し考えて、「仕事に意欲的で素敵な人です」とだけ答える。


「彼氏か?」

「...いいえ」

「好きなのか?」

「...好きは好きです。いい仲間と言うか、お友達と言う意味でですが」


オレンジジュースにそっと手を伸ばすと、ゴクリとそれを飲んだ。彼の私をじっと見つめる視線に耐えられなかったから。