月が綺麗ですね

どれだけの時間私たちはこうしていたのだろう。時を刻む時計の針の音すら聞こえない静かな空間だった。

誰にも邪魔されず、彼が悲しみを弔うにはおそらく充分な時間がそこにはあった。


「ありがとう」

ふと、副社長は顔を上げると私から体を離した。


「大切な人を失っても、俺たちは生きて行かなくてはならない。いつまでもメソメソと泣いていては、大口さんも喜ばないな」


悲しみを吹っ切ったように彼は笑うと、眼鏡に手を伸ばしそれを掛ける。

そこにはいつもの副社長の顔があった。


「お前のスーツを汚してしまったな」

「いいえ、気になさらないでください」

「クリーニング代を出そう」

「いいえ、クリーニングに出すほどではありません」


私は笑顔で答えたのだった。