月が綺麗ですね

私はたまらず立ち上がり副社長の隣に座ると、片方の手を彼の拳を包むように重ね、もう片方の手で背中をさすった。


「残された奥さんと子供は俺が支える。俺が力になるっ」

「はい」

「...進藤」

「は...い?」

「お前の肩を貸してくれ」


ゆっくりと副社長の腕が私の背中に回され、首筋に彼の前髪がこすれ、それと同時にムスクの香りがかすかにした。

私も自然となんの躊躇もなく彼の背中に腕を回し、嗚咽と小刻みに震える彼の体を抱きしめ、その広い背中をゆっくりとさすり続けた。


私は大切な人を失った経験がないけれど、重なる胸から彼の悲しみがハッキリと伝わり、同じように辛くなってくる。

悲しみを共有することは出来ないかも知れないけれど、享受することは出来る。


私の肩で少年のように涙を流す彼が副社長と言う仮面を被り、日頃どれだけのストレスと、重荷を背負って生きているのかを知った。


クールに仕事をこなす彼の別の顔。素の姿を私にさらしてくれた副社長の心の負担を、少しでも軽くしてあげたいと思った。


悲しみを享受しながら、この人を男らしいと思った。

そして、六ツ島 徹という人がたまらなく、愛しいと思った。