月が綺麗ですね

ふいに眼鏡を外すと、副社長の大きな手は目を覆っていた。


「大口さんは...俺より10歳は年上だったが、なんでも相談できる兄貴のような存在だった。...逝くには早すぎる...」


どことなく声がつまっている。


「彼は...結婚が遅かったから、子供も...まだ小さい。きっと...心残りだったはずだ」


途切れ途切れに発せられる言葉から、副社長の辛さが伝わってくる。


私はお通夜で泣いていた若い奥さんと小さな3歳くらいの男の子のことを思い出していた。あの光景は私の脳裏にも焼き付いている。衝撃的で涙を誘ったものだ。



けれど、私は黙って副社長の顔を見つめるしか出来ない。どう声をかけていいか分からなかったから。


目を覆っている彼の手の下からは涙が流れているのが確かに見えた。私にとってその涙は、違う意味で心を切なくさせた。


感情を表に出すことを嫌う、いつもクールな副社長が泣いている。

私と言う存在を前にして恥じることなく、大切な人を失ったことに悲しみ、苦しむ姿がそこにはあった。



「あの人は...俺の...嫁さんの心配を...よくしていたな...。自分だって...中々結婚...しなかったくせに...」


ふふっと肩が揺れ、鼻先から涙がポツリと落ちると彼のスラックスを濡らした。


「死んじまったら、どうにもならないじゃないかっ」

彼はぎゅっと拳を握る。その肩は寂しく、誰かに救いを求めているように見えた。