教室の中はうるさかった。
楽しそうに5、6人でまとまってお喋りをしている女子達、こんなにも暑いというのに腕相撲に燃えている男子達と、それを応援する周りの人たち。
まるで空気に取り残されたように、幸子は一人で席についていた。
さっきまでなんとなく聞いていた、朝のテレビの音声が無性に気になるのである。
日常が、もう二度と帰ってこないものになったら。その言葉が、深く印象に残っているのである。
そんな幸子の元に、一人の少女が来た。
幸子の小学生からの友達、美羽だった。
美羽は、優しくて頭のいい女の子だった。校則は絶対破らないし、その一切染めていない黒髪は、耳の下でしっかり2つに結われていた。おまけに、目がぱっちりしていて、どこか可愛らしいのである。そんな美羽は、昔から幸子の親友であった。
「どうしたの、幸子?元気ないよ?」
「いや...何でもない...。ただ、一つ気になることがあって、それについて考えてたの...。」
幸子は、俯きながら言った。
「...そうなんだ!じゃあね!」
そう言って、美羽は彼女の他の友人である、姫華、なの、桃音の元へ走っていった。
楽しそうに話している4人を、幸子は何も考えていないような表情で見つめた。
なんとなく、見つめた。