俺がそう言いかけた時に、初めて神谷は俺をちゃんと見てくれた。


「え? 秋山くん…? 秋山くんだったの…?」


俺は全身の力が抜けた。
あの頃、中学の時にたまに話をする程度の野球少年を、神谷は覚えていてくれた。

俺だって高校や大学で彼女も作ってそれなりに楽しんできたけど、神谷の前だと中学生に戻ったみたいにドキドキが止まらない。
まるでネジが壊れたロボットみたいに…


「ひ、久しぶり…
こんな風に再会するなんて、マジで俺も驚いた。

だって、15歳ぶりだもんな」


俺は感傷に浸る前に、そうだと気付いて神谷にケーキを渡した。


「本当にごめん…
俺にとっては、最悪の再会みたいだ…

バレンタインの大切な日に、神谷が恋人のために作ったケーキをぐしゃぐしゃにして…
10年ぶりに再会したのに、もう、俺、何やってんだか…」


俺がそう言って顔を上げると、俺の目に神谷の涙が飛び込んできた。


「秋山くん…
こっちこそごめんね…

もう、いいんだ、うん、もう終わったの…

それより、ありがとう…
こんな私を見つけてくれて…」