あ、あ、あ愛してる「君に伝えたい思いをこめて」

超絶技巧演奏を次から次にこれでもかと弾きまくった。

予定していたプログラムは毎回、無に等しかった。

トニーからどんな曲を演奏されてもいいように、エマと手当たりしだい超絶技巧曲の譜読みをした。

俺は本番で困惑する姉、ピアニストのエマのピアノを支えながら、トニーの好き勝手放題の演奏にも対処しながら懸命に食らいついた。

デュオSoleilと共演していることで、俺の評価は割増されプレガレッジの課題を与えられるたび、気を抜けなかった。

実力以上の評価を期待される緊張感とストレスは、吃音のリハビリにも負担になった。

だが、トニーに苦言を言うものがいなかった。

姉のエマもマネジャーも彼を咎めない。

トニーに抵抗し、トニーの編曲や演奏に必死で食らいつき頑張れば頑張るほど益々、トニーは天狗化していくように思えた。