あ、あ、あ愛してる「君に伝えたい思いをこめて」

ニューヨークでのボイストレーニングはクラシックデュオSoleilの伝手(つて)で、音楽療法士の資格を持った凄腕のトレーナーに指導してもらった。

喉の調子を崩す以前よりも、格段に声も出るし正確な音も出せる。

俺が各パートを歌い終えると、花音が目を赤くして頬を拭っていた。

留学直前、出発ロビーでの悲惨な俺の声を聞いていた花音。

俺の喉から出る声は、掠れたなどと言える代物ではなかった。

今、思い出すとゾッとする。

両手で首を絞めつけられたとしても、あんな声は出ないだろうと思う。

「完璧過ぎてなんも言えなーい」

最前列にいる1年生の第一声を皮切りにして感嘆と賞賛の言葉が飛び交った。

「初見の和音くんに負けてどうするの!」

花音が俺の言い分を代弁し、部員たちに発破を掛けた。

「じゃあ、花音先輩。歌ってくださいよ、有栖川先輩も。わたしメゾ歌いますから」