不思議に思い、そっと中を覗き見ると、そこには既に先客が居た。

それも、自分とはまるで無縁の存在が。

おそらくこの学園で、知らない者がいないほど有名な彼——ハル先輩の姿がそこにはあった。

一瞬れっきとした部員であるはずの自分の方が、部室に入る事を躊躇してしまう程、まるで現実味のない出来事に戸惑う。

するとそこで、こちらに気付いたハル先輩が口を開く。


「——もしかして、いつもここでドラムを叩いてるのって君、?」


一瞬問われている質問に思考が追いつかず、返答が遅れる。


「……はい。わたしです」


何故そんな事を聞くのかと、不思議に思っているとハル先輩が再び口を開く。


「そっか。実は誰が叩いてるのか、ずっと気になってたんだ」

「……ッ、」


まさか誰かに聞かれていたなんて思いもしなかった。

誰かに聴かせるには、お粗末過ぎる自分の演奏。

そんな事は自分が一番分かっている。