ボーカルのユウキさんがこちらを見た。

木田川さんの隣にいた男性スタッフが頷いてインカムで何かを伝えている。

曲が終わると、照明が落とされユウキさんにだけピンスポットが当たり、ステージ上が暗くなる。
ヒロトさんや他のコンサートメンバーと共に進藤さんもステージの袖に戻ってきた。

観客席から見えない場所に来ると膝をつき座り込んだ姿を見て私は駆け寄った。

「進藤さん!」
肩で息をしていてすごい汗だ。
薄暗くても顔色が悪うことはわかる。
全身は燃えるように熱い。

「果菜、心配しなくていい。まだ大丈夫だ。最後まで行ける。ちょっと水をくれ」
片手を床につき座り込んだ進藤さんにペットボトル飲料を渡した。

「進藤さん。ちょっと喉を見せて」
木下先生がペンライトを当てる。

「ああ、ひどく腫れているね。これじゃあ息苦しいだろう。仕方ないね、注射しておこうか。水沢さん」

私に指示が出た。
「はい」
往診カバンからセットを取り出し、手早く準備して、薬液の入ったシリンジを木下先生に渡す。

「進藤さんのギターを使う腕には打ちたくないからお尻にしよう。水沢さん、ちょっと捲って」

木下先生の言葉に進藤さんはぎょっとした様子で「おい、果菜やめろ」と私の腕をつかむ。

にっこりと進藤さんに微笑んで「大丈夫、お尻じゃなくて腰のちょっと下なだけだから」と言って進藤さんのズボンに手をかけた。

「いや、マジでやめろ」
「大事な腕よりましでしょ」

ズボンの金具を外そうとすると「果菜、やめろって」と私の手を押さえて抵抗する。

「木田川さん、進藤さんを押さえて下さい」と言うと進藤さんもやっと諦めてくれた。

「仕方ない、早くやってくれ」

もう初めから抵抗しなきゃいいのに。

ズボンと下着を軽くずらして腰の下、お尻のかなり上の方に注射した。

「なんだ、もっと下かと思った」

「だから腰の下って言ったじゃないですか」

私たちのやり取りに近くにいたスタッフたちからクスクス笑いが漏れる。

チッと進藤さんが舌打ちをする。
念入りに揉んでいる私と目が合って進藤さんは「覚えてろよ」と言うが、
「はいはい」と受け流しておいた。