私の言葉に、口角をあげる先輩。
「まあその言葉しか求めてなかったけど」
人間じゃないみたい。
ひんやりとした手を、私の頬に添える。
ジッと見つめる先輩。
笑う先輩
余裕そうな先輩。
だけど、たまに見せる手加減なしの本気の目つきが、私を呑み込んでしまいそうな勢いで捕まえにくるから。
「あ、あんまり見ないでください……」
睨めっこだったら、絶対先輩に勝てないと思う。
恥ずかしさで濡れた瞳を、覗き込んでくる先輩は、私の羞恥心を煽る天才だよ。
「こっち向けよ、天沢」
「やだ……っ」
「向けって」
おかしくなりそうなほど、甘い低い声に。
お酒なんか飲んだことすらないのに酔ってしまいそう。
これじゃあいつまでたっても先輩のペース。
下唇をグッと噛んで
理性だけは奪われないようにしていたら。
「あの、」と、小さいけど、よく聞こえる通る声をしている、女の人の声が聞こえてきた。
驚いて、くっつきたがりな先輩の胸板を押して
「はい!?」と裏返った声で返事をしながら、正面を見ると。
「あっ……」
あからさまな、私の低い声が唇の隙間から漏れる。
あの人だ。
さっき、ナンパから助けた綺麗な人。


