頭を撫でられ、主任の胸元にしがみついたまましばらくしてそうしていたら、


「そうやってモモは甘えていればいいんです」

「でもっ…」


甘えてばかりなんて、そんなのダメなのに。


「むしろまとわりつくぐらいしてくれてもいいと思うんですけどね?……たまにしか会えないんですから」


まとわりつく……って犬や猫じゃないんだから。

帰ってきて玄関で抱きついたり、離さないで欲しいなんて言ってみたり。
十分甘えてっていうかわがままばかり言っている気がする。


「たまにしか会えないから、ふれたいけど、話もしたくて。その姿を忘れないようにずっと見ていたくて…矛盾ばっかりなんです私。」

「全部。すればいいですよ」

「私っ。遠距離なんてしたことなくて……」
「一緒です」

「だからっどうしていいかわかんなくてっ」
「そうですね」

「だからっ――」
「だから、一緒にどうすればいいか考えればいいでしょう?」


え。


「距離のことはさすがに解消できませんが、一緒に悩んで考えて二人にとっていい答えを見つけていくのも楽しそうだと思いませんか?」


一緒に悩んで?
一緒に考える?
答えを見つけるのが楽しそう?


つらいじゃなくて?
一人で考えこむんじゃなくて?
二人で答えを探すの?


主任の言葉に目をパチパチさせて見ていたら


「付き合っているのですから、当たり前でしょう?」


あ。
そうか。


「はいっ」

「モモ、おいで?」


いつだってこうやって主任の甘い声で呼ばれるとそれを拒否することはできない。

でも、私もそれを望んでいるのだから、それはそれでいいんだ。


何を迷っていたんだろう?
何を悩んでいたんだろう?


この場所はこんなにも温かく
こんなにも安らげる場所なのに


そのメガネをはずす仕草も、ちょっと意地悪そうに口角を上げるそんな主任も全部好き。


心も体も触れあって繋がっていたい。


「…すき、です」


私の口からこぼれ落ちた気持ち。


そう、この気持ちこそが一番大切な出発点だったんだと気づかされた。