彼女がバレンタインデーチョコを作らない理由






「迷惑じゃない」


「ありがと」


「ユズリナがくれるものだったらどんなものだって嬉しいよ」


「ありがと」


「昨日作ってきた抹茶のバウンドケーキ、食べたかった」


ぽかんとした顔をする。


確かにバウンドケーキを作ることは話していた。だけど、そんなどーでもいい雑談を覚えているなんて思わないだろう。

実際、ユズリナは思わなかった。



ほんとうに欲しかったんだと今気づいた。



「来年は作ってきてくれる?」



「いや、作らない」



ユズリナは赤い頬を隠しながら見上げた。












「私の気持ちなんてもう、チョコレートを渡さなくてもわかっているでしょ?」










それが彼女なりの照れ隠しだと彼は知っている。