近づいたと思えばすぐに離れる。
手を伸ばしても心には触れることができない。

そんなもどかしさを感じていた。



「昨日、二人で何してたか聞かないの?」



ニヤリと葉菜さんが微笑む。



「聞きません。あたしは自分の目で見たものしか信じませんから」


「強気ねー。じゃああなたの目で見たものってなに?」


「婚姻届です」


「は?」



あたしの言葉に葉菜さんが怪訝な顔になる。



「学くんと結婚しているのはあたしだという事実です」



この事実があれば、あたしはこの人よりも立場上で勝っている自信があった。

学くんの妻が武器になる。



「へー。そうきたのねー」



面白そうに笑いながら〝ちょっと待ってて〟と学くんの書斎へと入っていく。



「そこは……」


「いいのよ。付き合ってた頃から変わらないんだもの」



慣れたように、なんの躊躇もなく学くんの机の引き出しに手を触れる。