「久しぶり、ちとせちゃん」



1枚の扉を開けて目に入った光景。
広々としたリビングと、高級そうなソファーに手垢がつきそうなガラス張りなのにピカピカなテーブル。

そして、ソファーで雑誌をみていたのだろうか。
その雑誌を膝の上においてニッコリと微笑む男の人。



「ま、なぶくん……」



彼の言うとおり、あたし達は久しぶりに会った。
そのせいか声が上ずる。

いや、そのせいなんかじゃない。
彼は、あたしがずっとずっと好きだった人だから。



「親父が俺と結婚しろって言ったのって、ちとせちゃんだったんだ?」



フッと笑って、読みかけの雑誌を置いてソファーから立ち上がる。



「そんな案に乗るとか、ちとせちゃんも案外簡単なんだね?」


「いや、あの……」



じわじわとあたしに近づいてくる学くんに、だんだんと後ずさりをしていく自分。


どうなっているのだろう。
こんな、学くんがいるなんて想定外だ。

どうして、こんなことになっているのか。
話は昨日に遡る。