「目、逸らすなよ!」



横たわる母さんから背を向けた親父を引っ張って、母さんに向かせる。



「いまは、いまだけは許してくれないか?」


「いまだけ?」


「あぁ……こんな姿になってる愛美さんを見ることができない」



俯いたまま、そばにある椅子に腰をかける。



「1度も見てないだろ、あんた」



母さんのことなんで見たことがないくせに。
なにを綺麗事言ってやがる。



「え?」


「俺が何にも知らねぇとでも思ってんの?」



あの日、病室の前でみたことは決して口にしたことはなかった。
あのあとすぐに、環とちとせちゃんの母親は亡くなったし。
亡くなってからその話題を出すのも気が引けた。

でも、亡くなってからもこいつがあの母親を想ってることは知っていた。



「なんの話かな?学」



親父は気づいてない振りをするように、俺からも目をそらす。



「あんた、1度でも母さんのこと見たことあったのかよ」