彼は通ってる。わたしは通ってた。
わたしはもう二度と、通うことがない。
きっと、きっと。
言葉の意味に気付いた彼が、ほんの少しだけ悲しそうな顔をした気がした。
わたしはそんな彼の方を見て、なんでもない顔で、笑う。
「ここで死んだのに、花の一つもおかれてないの。笑っちゃうでしょう?」
学校、近いのに、と付け足す。
死んだときと、何一つ変わらない道路、歩道。
わたしがちょうど車に轢かれた場所には、その近くの歩道には、相変わらず何もなくて。
それはつまり、誰一人、母でさえ、ここに花を添えなかったということ。
自分で言って、少し、少しだけ惨めだ。
ああ、誰も、わたしの死に花を、華を添えてくれないだなんて。
わたしが指さした道路をしばらく見つめて、もう一度川の方を向き直す彼。
それをじっと眺めていて、彼の額にじわりと汗が滲んでいることに気付いた。
今日は、少し、暖かいのだろうか。
わたしはもうすでに、風も感じられないくらいだ。
わたしの世界では、温度も変わらないのかもしれない。
気にしていなかったけれど、気になってしまった。
日差しが強いから、暖かいのにブレザーまで着てるから、少し暑い、のかな。

