秘書初日はあっという間に過ぎていった。

定時退社の時刻が迫っていた。


「雨宮さん、お電話です。営業の岬さんです。」

「えっ?あっ、はい。」


目の前の内線を取ろうとしたが、横から伸びてきた手に取られてしまった。

辿ればニヤリと笑う恵さんだ。


「賢、何?」


恵さんには御見通しだ。

相手は勿論賢だ。


「無理。今日は私と買い物に行くから。それだけなら切るから。」


容赦ない。

賢の内線はあっさり切られていた。


「副社長には許可貰ってるから。今日は雨宮さんの洋服を見に行きましょ。」

「すみません、助かります。」

「いいの。」


恵さんと話していれば、目の前の内線が音を立て始めた。

また賢なのか?


「はい、岬です。」

「…………俺も…………。」


僅かに声が漏れている。


「副社長、明日の資料は終わったんですか?」


賢ではなく、副社長だったらしい。

恵さんがちらりと私を見た。


「仕事はちゃんと終わらせて下さい。今日は雨宮さんと2人で先に退社させて頂きます。」


内線が切れた。

恵さんと目が合う。


「さっ、行こうか。」


にっこりと微笑む恵さんは最強だと知らされた。