大きく深呼吸をした。

何度深呼吸しても緊張は解けない。


「心菜、挨拶は大丈夫だよな?」

「名前だよね?」

「普段の仕事と同じ。俺がフィアンセと紹介するから、笑顔を忘れずに挨拶だ。」

「笑顔…………。」

「大丈夫、いつもの心菜で。」

「いつも…………。」


緊張から頭が働いてない。


「心菜ちゃん、副社長秘書として顔は合わせてるから、そんなに緊張しないの。」

「はい。」

「ほら、緊張してる。」


ぷにぷにと頬を突っつかれる。


「ちょっ、恵さん。」

「旦那様が笑顔だって。」

「旦那様?まだ違います。」

「もうすぐでしょ、ほら。」


恵さんがつんつんと頬を突っつく。


「心菜ちゃん、頬が赤いわよ?照れてる?」

「恵さん。」


茶化す恵さんの行動に、緊張の糸が解れてきているのを感じる。


「私は両親と見守ってるから。」

「はい。」

「またね。」


嵐のように恵さんが去っていく。


「旦那様か。いいな、その響き。」


ニヤニヤ顔の慈英と目が合った。