あっという間に噂は広まる。

夕方には内線が鳴る。


「姉貴いる?」

「あっ、うん。」


賢からの内線を恵さんに渡す。


「…………。」

「いいの。わざと流したから。」

「…………。」

「賢も頷いておいて。」

「…………。」

「バカね。だからガキって言われるのよ。切るわよ。」


内線が切れた。


「はぁー、保守するだけではダメだって理解してないのよ。」

「…………。」

「攻撃も必要って事よ。」


恵さんを見ていれば、もう仕事モードに切り替わっている。

私も自分の仕事に戻ろうとしたが、人の気配に視線を上げた。

秘書課の先輩だ。


「どこから漏れたのか噂になってるよ、二人の馴れ初めが。」

「…………馴れ初め?」

「もう3年近いって。」

「あー、それですか。」

「話は気をつけた方がいいよ。誰が聞いているか分からないから。」

「はい、気をつけます。」


一応心配してくれているらしい。


「ふふっ、本当に気をつけないとね。」


張本人が笑っている。

その日の内に噂は広まった。

賢は相当しつこく聞かれているみたいだが、恵さんには逆らえないのだろう。

私達の噂で持ちきりになっていた。