3人でランチを食べる。

目の前に座る慈英と目が合う。


「心菜、俺は限界。」

「限界?」

「早く発表したい。」


コソコソと話す私と慈英の会話を武内さんが黙って聞いている。

もちろん、近くに誰も座っていないのも確認済みだ。


「心菜、覚悟を決めとけよ。」

「慈英、そんなに焦る必要はないだろ。」


武内さんが口を挟む。


「優大(ゆうだい)、何で心菜の隣に座る?」

「俺と並びたいのか?」


武内さんの名前を呼び捨てにする慈英は不機嫌丸出しだ。


「普通は俺の隣が心菜だろ。」

「噂になると困る。」

「はあ?優大なら良いのか?」

「俺は彼女の直属の上司だから噂にはならない。」

「何だ、その屁理屈。なあ心菜、本当に限界だから。」


慈英と目が合う。

真剣な表情で見つめられ困惑する。


「親父にもお袋にも『早めに関係を公にしたい』と伝えてある。もちろん、反対もされなかった。」

「…………。」

「ちゃんと守ってやる。」

「慈英…………。」


慈英の真剣さは伝わっている。

今の関係なら会社で平和に過ごせている。

でも関係が公になれば、女子社員の態度がどんな風に変化するのか予想もつかない。

それぐらい副社長との関係を公にする事に不安はある。


「まあ俺も守ってやるよ?恵の大切な妹だから。」


武内さんの言葉が引っかかる。

武内さんは岬家と関係があるように思えてきた。

副社長の秘書になって一ヶ月。

やっと会社にも慣れてきた。

そんな私と副社長である慈英の関係が公になる?

不安は拭いきれないでいる。