「俺と菊里はね、同期なの。こいつは院卒だから歳は2コ上になんだけど、新入社員研修の時から気が合って」

「あ、そうなんですか」

知らなかった。元々技術者の人とは仕事で接点がないから、私も同期くらいしか知り合いがいない。それなりに大きい会社だから、菊里課長の事も移動してくるまで存在も知らなかったのだから、当然と言えば当然だけど。

「本当はさ、俺はもっと同期感を前面に出してもよかったんだけどね?こいつ、変なとこで気を遣ってさ。『俺と仲良いってバレると旭野に迷惑かける』って仲良くないフリしてんだよ」

「あー、まぁその気持ちは、私も分からなくないです」

移動してきた当初、営業部に在籍するほとんどの男性社員が菊里課長に好意的じゃない空気だったのを思い出して眉を下げると、課長も困ったように眉を下げた。

「仕方ないよ。昨日まで技術だった、営業なんてやった事もないヤツがいきなり上司になるんだからさ。俺だって逆の立場だったらムカついてる」

「だよなー。俺も来たのがお前じゃなかったらムカついてる」

「だよな」